真夜中の電話


手嶋 亨


 つい先程北海道の出張を終え、飛行機で札幌より帰って来た私はそろそろ寝ようとしていた。明日、あさっては皆は二口山塊の会山行だが、私は今回はのんびりさせてもらう。

 と、突如として電話のベルがけたたましくなった。時計を見ると11時50分。今頃何だろう。受話器を取ると、古野さんの声が飛び込んで来た。

「いやー、今東北道の白岡にいるんですけどね。実は千々輪君のパジェロのエンジンから煙が出てきて、一切動かなくなっちゃったんですよ。JAFは一応呼んだんだけどね。羽生SAで23:00に集合なんですよ。携帯で連絡は取れているんですがね。困った、困った。手嶋さんが一緒に山に行ってくれると助かるナーーー、なんて思ってね。無理ですよね。」

「ありゃー、そりゃ大変ですね。いやー、これから行くっていうのはちょっと・・・。いずれにしても頑張って下さい。何かあったら連絡して下さい。」と言って電話を切った。それは不運でしたね、でもしょうがないね、と思い寝ようとはしたものの、なにか後ろめたい気持ちになって来た。なにせ場所が悪い。白岡と言えば我が家からすぐである。

 様子をうかがうつもりでしばらくして古野さんの携帯に電話をしてみた。

「ああ、どうも。JAFが来て、こりゃダメだって。今日は行けないな。あちらのパーティには先に行っててもらうことにしましたよ。今晩はこの辺りでどこか適当な所に寝ますよ。明日登山道を追いかけて大行沢の小屋の所で落ち合うことにするかな。明日は我々は沢は無理だな。ま、大幅に計画縮小ですよ。しょうがないね。」

 おいおい、そんな悲しい言い方しないでくれよ。午前1時50分、私は再び古野さんの携帯に電話した。半ば覚悟を決めて・・・。

「ああ、今久喜インターの外に出たところです。車はここに置いて、これからどこか寝る所を探しますよ。大丈夫ですから、ま、気にしないで下さい。」何が気にしないで下さいだ。久喜はすぐそこだ。ここで何もしなかったら人間性を疑われる。

「わかったよ、わかったよ。行くよ。行きますよ。ハイハイ。」

「エッ?いや、大丈夫ですよ。そうですか?いいんですか?そりゃ悪いですねー。」

かくしてついに私はのんびりした週末から突如沢登りの場へとそれも夜中の2時にかり出されてしまったのであった。古野さんの術中に見事にはまってしまった。

 現地についたのは7時前であった。先行パーティも皆起きてきた。ひとしきりこの話題で大笑いしたあと、カメさんがニタリと一言、

「だけど手嶋さん、本当は来たかったんでしょ?」

バカヤロ!


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