アウトドアマンの実力


手嶋 亨


 水無川の険谷の遡行を明日にひかえ、今日はのんびりと明るいうちからキャンプ場泊まりだ.前方にはオツルミズ沢のサナギ滝が圧倒的な眺めを見せている。天候も回復した.あとは焚き火の回りでのんびりと飲むだけだ。

 少し離れた横のスペースにアベックのキャンパーが陣取った。すぐに彼らはそこにお決まりのように夕一ブを張り始めた。あの美しい曲線をえがく菱形の例のヤツである。
「んなもん張ったって、もう雨なんか降りゃあしれえよ。ヤダね一、正しいアウトドアマンは。何かっていうとすぐ教科書通りのタープだぜ。」
と半ば嘲り気味に言うものの
「んだんだ、アベックでなんか来やがって。 」
と実はかなりうらやましく眺めている男4人だった。
 彼らは夕一ブを張り終えるとその下にテントを張り、さらにツーバーナーのセットを始めた。 一方我々は焚き火の回りでゆったりと酒を飲む。
「やっぱり焚き火だぜ.焚き火のしかたでもアウトドアマンに教えてやっか。」
などと無駄口をたたいていた。

 そのうち、それまで美しく晴れ渡っていた空に瞬く間に雲が立ちこめ、ポツポツと雨が空から来だした。始めはどうせすぐやむものだと無視していたのだが、やがて結構雨足も強くなってきた。
「おっと、それじやあオレ達もタープを張るとするか。 」
本当のワイルドなタープを見せてやるぜ、とばかりタープを張ろうとしたが、紐を張る支点がない。立木があるものの、どうしても距離や位置が合わないのである。そこにザイルを張り巡らしてもどうしてもだめだ。
 そのうちに雨が大降りになってきた。瞬く間にに土砂降りである。我々は張りかけていたタープの紐を取り、ほうほうの体で1枚のタープを4人でかぶる。大粒の雨はようしゃなくタープを打ちつける。焚き火が消えては大変と4人で焚き火の上にタープをかぶせる。
 一方のアウトドアマンの方はというと、美しいタープの下でバーナーのセットをし終え、のんびりしながらこちらを眺めている。なにやら2人でこちらを見ながら会話を交わしている。「ああいうシロウトの人達はやり方を知らないんだよね。ああいう人達とキャンプに行つてはダメだよ。」とでも言っている彼氏の声が聞こえて来そうであった。
 雨足が弱まると夕一ブを張ろうとするのだが、どうしてもうまく行かず、そうこうするうちにまた雨は一段と激しさを増し、再び我々は夕ープをかぶるのだった。 結局ついに夕一ブは張れないままやがて雲は去り、雨は上がった。ビッショリ濡れた意味なく四角く張られたザイルと、そこに干した全く用をなさなかった夕ープだけがむなしく雨上がりに残った。我々は卑屈にペコペコと頭を下げそうで、彼らと目を合わさないように努めた。

  結局古来からの言い伝え通り、アリとキリギリスの戦いはアリの圧勝であった。
正しいアウトドアマンの実力はすごい!沢ヤは彼らに学ぼうではないか!


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