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闇夜の雪壁登り
越後/八海山 アラチ沢右稜(雪稜)
佐貫
【日時】2006年1月21日(土)〜22日(日)
【メンバー】棚橋(L)、関口、大野、佐貫
12月の集会で関口さんから提案があり、早々とこの計画が決まる。1月前半までの猛烈な寒波・大雪が少し落ち着いたところでもあり、良い状況が期待できるかな?と虫のいいことを考えながら現地に向かう。メンバーは結局いつもの4人である。
代わり映えしないかわりに安心感があり、久々に組むパーティーながら違和感はゼロだ。プラブーツのインナーを履いているときに靴紐がブチッと切れ、げっ不吉だと思ったが見なかったことにする。八海山スキー場に車を駐車させてもらい、計画書を提出して出発。天気は予報よりはるかに良い無風快晴。
急な雪壁を稜線目指して登る
アラチ沢沿いに進んで行くが、雪はそれほど締まっているとはいえず、表面に少し新雪の乗ったモナカ状を形成していてあまり楽をさせてくれない。取付に近づいて見ると右稜末端付近には亀裂が走ったり表層(所により全層)雪崩の跡があったりして、まるで3月頃の風景のようだ。11月下旬からのあまりの降雪量の多さに先日の気温上昇が加わり、積もった部分が持ちこたえられなくなり一度落ちてしまったのか?アラチ沢にも側稜から落ちたデブリがたまっている。ワカンのまま尾根に取り付くが、中途半端に露出したブッシュがうるさい。途中でアイゼンに替え、トップを交代しながら次第に傾斜を増す尾根(というよりは雪壁)でブッシュを掴みながらの格闘となる。稜線上に大きな桧が生えている所までもう少し、というところで、第一の難関に当たる。雪壁に斜めに走る亀裂の上側が庇のように張り出しており、大野さんがスコップで末端を切り崩して何とか越えることができた。そこから先はモナカ雪に悩まされながらもしばらくはどうということのない雪壁が続く。私は年末にひいた風邪をこじらせ、3週間もの間咳が止まずまともに歩いていないためどうにも身体のキレが悪く、情けない有様である。
ナイフエッジの下り。途中から左手の木の間を回りこむ。雪はグズグズで悪い。
尾根が方角を東向きに変えると、いかにも何か出そうな感じになってきた。すると先頭にいた大野さんと関口さんがこちらを振り向いて微妙な感じで笑って待っている。果たしてそこは核心部のギャップの始まり、覗き込まないとルートが見えないような急な下りでしかもナイフエッジ!恐怖度高し。3,4メートル先の立ち木の下には、カモシカが一頭途方に暮れて立ち尽くしているようだ。適当な懸垂支点などないので、ロープを出して関口さんが先頭で確保されながら下りていったが、特に下半分が悪いとのこと。確かにその通り、グシャグシャしたザラメのような雪でステップを刻むどころではなくほぼ垂直に崩れている。ラストの棚橋さんは途中に一本だけ出ていた杭のような立ち木でこの部分を懸垂して下りてきた。その間、関口さんと大野さんは生金沢左稜との合流点手前の1364の標高点へと続くこれまた急な尾根(雪壁)にトレースをつけてくれているが、手前からはまるで70度くらいのところを登っているように見えた。実際はそこまで斜度は無く、ギャップをはさむと傾斜がここまで急に見えるものだという良い見本のような場所である。
ナイフエッジ下降終了の時点ですでに16時半を回っており、通常の山行であればもしかしたらここのギャップのコルの部分で行動を打ち切りとしていたかもしれない。しかし日曜日に天候が崩れる可能性が高いと踏んでいたために、とにかく今日中に少しでも伸ばそうということで行動を続ける。わらじの大津氏の記録では、コルからの登り返しは右手の岩稜は傾斜がきついので(正面の)不安定なルンゼを左上気味に上がる、となっていた。もうこの時点で日没を迎えており、全容は見通せない。大野さんがロープをつけてまず岩稜の方に取り付いてみたが、やはり岩稜はかなり急らしく、途中で引き返してきた。関口さんは、「一旦ここから少し(標高差にして30m程度)下りて、左から回り込むようにルンゼに取り付いたらどうか」というが、正直なところ暗くなってからあの急なところを下りるのは気が進まないなあと思っていた。大野さんが「ここからトラバース気味にルンゼ方面に登ってみる」と言って再びロープを引いて行く。「これでダメだったら下るのか…やっぱり今朝の靴紐が…」と半ば覚悟しながら見送ってしばらくすると、ものすごい急雪壁かと思われたルンゼ上部を抜けたらしくビレー解除の声。あー助かった。風もないし雪もぱらつく程度で条件は悪くない、明日はこんな好条件での行動は望めないだろうから今日中に何とか行ける所まで行くべきだ、という関口さんの意見で疲れた体に鞭打って更に前進。月明かりもない闇の中を20時半まで登り続けてこの日は行動終了とした。
寝るのも遅くなり、やや寝不足ながらも7時に行動開始、足元はアイゼン+ワカン。ガスで視界はあまりないし風もあるが、冬山の状況としては大したことはない。雪庇に注意しながら緩い斜面を登っていると次第に雪は止み、ガスも薄くなってきた。千本桧小屋を経て急な雪壁を登り、平坦でだだっ広い薬師岳山頂へ。竹竿が2、3本見える。山頂直下はクラスト気味でワカンを外したくなる。少し下るとガスが晴れ、見通しが利くようになってきた。女人堂の小屋は屋根の一部だけが雪の上に出ていて、あと一回大雪が降ったら全部埋まってしまうのではないかと思われた。女人堂のすぐ下だけが急だが、あとはすっかり晴れた空の下、ルートを何度も振り返って長めながらのんびりとラッセルしてスキー場へ戻り、ゲレンデを歩いて下った。大野さんは駐車場の係の方に、「昨日、登っているところを一日中見てましたよ」と言われたそうだ。
今回は自分としては病み上がりで全く貢献できず、すっかり3人にお世話になってしまった。また、ロープを出すと途端に時間がかかるという従来からの課題がまたも浮き彫りになり、色々と今後への宿題を課せられた感じである。それでもトレースや先行者など当てにしない静かな山に通うことで、歩みは本当に遅いながらも得るものは大きい(と信じたい)。これからも精進してひとつずつ登っていければと思う。
【行程】
1/21 八海山スキー場(8:15)-ギャップ下降開始(15:20)-c.1364手前幕場(20:30)
1/22 出発(7:05)-千本桧小屋(7:50)- 八海山スキー駐車場(12:15)
【地図】五日町、八海山